■スナメリと出逢う
それから船はさらに瀬戸内を西へ進みます。 波も風もない静かな瀬戸内海の夕暮れ。ぬめっと波のない海は独特の雰囲気をたたえていました。 あまりにも風が無く、僕たちは機走で(エンジンで)走りながら、オバケとか海坊主とかが、その辺に現れてくるんじゃないか、というような怖い話しを、おもしろ半分にしていた時でした。 僕たちの船からほんの数十メートル先に、海坊主みたいなものがポコッと現れたのです。 辺りは段々暗くなってきていたので、黒いシルエットが見えただけ。 謎の生命体の出現!? それがあまりにもタイミング良かったので、とても驚いたのです。 僕たちは船ですぐ追いかけ、その正体をつかみました。 それは『 スナメリ 』という、瀬戸内海に生息する小さな鯨でした。 体長はイルカのように小振りで、背ビレがありません。 このクルージングの旅に出てから、初めて出逢う動物。 ノンビリとした瀬戸内の、早い春の海の断片です。 ■冷たい春の海 左手に四国の景色が続き、来島海峡を越えさらに釣島を越えたあたりで、ペラ(エンジンのプロペラ)が回らなくなった。来島海峡は、鳴門海峡に次いで、日本で2番目にきつい潮を流れる海峡です。 後方を見ると、大きな海藻を引きずってるではありませんか! 早く取り除かなくては! しかし、そんな海の真ん中で走行中で作業は無理だったので、次の寄港地、別府で作業という段取りになったのです。 僕は少し、嫌な予感がしていました。 伊予灘、豊後水道はとても風が良く、気持ち良く別府まで帆走できました。 そこまで途中で、同じ関西汽船(別府航路)に3回も抜かれました。 一日一便のフェリー船だから、まる三日という事になります。 そうして考えて頂くとおわかりのように、ヨットは、たいそうノンビリした乗り物なんです。 しかし、船の中のクルーにとってはこんなノンビリした時間とは逆に、時に激しいスポーツになる乗り物なのです。 さて、別府港。 海草取りの作業はジャンケンです。 嫌な予感は当たり、僕はジャンケンに負け、海に潜ってペラに絡んだ海藻を取り除く事になりました。 当時は今のようにウェットスーツなど無く、Gパンにトレーナーという格好で海に入りました。 それは、今まで未体験の海の冷たさと、感覚でした。「寒い」や「冷たい」を超えて「痛い」のです。ペラまでほんの1メートル、取り除く作業はほんの5分くらいの事でしたが、僕は一瞬でコチコチになりました。 【教訓4】 春(3月)のうみは一年中で一番冷たい。 僕はこの辛い任務を終え、事前に調べておいた温泉へいちもくさんに走りました。 さておき、海草を取り除くのにとても役に立ったものがあります。 それは『錆びたナイフ』です。 錆びたナイフは刃が適当にギザギザになって、のこぎりのようになってくれます。 それは、へーえ、という新鮮な発見でした。 役に立たないと決めつけない事で、このように答えが正反対になる事もあるのですね。 物事に偏見を持たず決めつけないという事は、とても大事な事なのです。 【教訓5】 錆びたナイフは良く切れる。(錆びたナイフも必要) ■別府観光港 ところで、僕たちは遂に別府まで走ってきてしまったワケです。 九州は、高校の修学旅行でも訪れたことがあったので、2度目の九州でした。 疲労感はあった筈だけれど、全く記憶にない。 ただ、未知の経験やワクワクした楽しい感じがずっと続いていたのです。 他のメンバーも同じだった事でしょう。 僕たちがかけこんだ温泉というのは、確か「ジャングル風呂」という名前で、いわゆるレジャー温泉でした。海に面した温泉で、ジャングル風呂、という名前が印象的で、未だによく覚えています。 冷え切った体を温めるべくかけこんだ温泉は、僕が潜る前に予めメンバーと下見をして見つけておいたのです。ドブンとつかった暖かなお湯が、天国のような心地だった事は、みなさんの想像の通りです。
by mrjib
| 2007-06-18 18:42
| Yachting
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